月刊OLN2020年4月号

みなさんいかがお過ごしでしょうか?

コロナウイルスの猛威は日に日に増してニュースもそのことばかり。
ここ数日は天気も今一つだし、気分もなかなか上がらないですよね。
オリンピックの中止が決まったおかげで国も東京も
ようやく本格的な対策に乗り出しはじめたようです。
なんかすごく後手ですけどね。

「かつてない」「思い切った」対策をすると言っていた総理からの発表は布マスク2枚。
それもひとつの住所につき…。
昨日は4月1日、エイプリルフール。
そういうこと?
日本中からツッコミの声が聞こえてきました。

そんな近頃ですが、みなさんにほっこりしてもらえるニュースがあります!
地元のラジオ局FMぐんまさんからしのさんが取材を受けました。
番組タイトルは「グンマドンナ」。
群馬とマドンナ。
ローカル番組にはダジャレはマストです。
分かりやすさと親しみやすさ。
ローカルはこうでなくちゃ!
群馬県で活躍する女性を紹介する、という番組です。
3月25日、4月1日の2回に渡ってしのさんのインタビューを放送してくれました。

グンマドンナ 取材の市川さんとしのさん。
グンマドンナ認定証をいただきました!
お隣はインタビュー取材に来ていただいた市川まどかさん。

午後3時の休憩時間、放送後に送ってもらった番組データをみんなで聴きました。

しのさんの緊張しつつも素朴な語り口。
伝えたいことを丁寧に言葉にしています。
がんばりました!
お疲れ様です!
そして見事な編集、番組スタッフのみなさまありがとうございました!

こちらから今回の取材ブログもご覧いただけます。
(これまた丁寧な記事にしていただきました!)
https://www.fmgunma.com/gunmadonna/

ちなみに番組スポンサーさんは自動車販売の株式会社トヨナガさん。
うちの父はキヨナガさん。
親近感!

「タテつなぎ」

たてつなぎ
しのさんと父キヨナガとで半分ずつ手でつないでるところ。
ちょうど糸数が半分の中心になるところから始めて、最後は手前で終わる。
どの糸もピンとしていて、二人とも上手だわ。

先日テキスタイルのデザイナーさんが桐生産地に訪れ、
井清織物の工場にも寄ってくれました。

ぼくたちの仕事の仕方を説明していると
「そんなにタテ糸の素材を替える機屋さんは初めてです。」
との言葉をいただきました。

言われてみればそうかもしれません。
実際、15年前のぼくが現在、井清織物で製織している織物の種類をみたら驚くと思います。

15年前にUターンして家業に入った頃、イノキヨでタテ糸に使っていたのは
いわゆる絹糸(ツルっとした糸)と柞蚕糸(ジャリッとした絹糸)、
麻はリネンをコンニャクで糊付けしたもの、それにポリエステルのフィラメント糸とポリエステルの紡績糸。
この5種類くらいだったと思います。

仕事を覚えていくと、やがて独自の織物を作りたくなります。
図案の話ではなく、織物生地そのものをです。
以前からぼくもしのさんも共通して好きだった織物が倉庫にありました。
その織物の手触りは素朴で、でも上質な繊維ならではの光沢を感じ、シンプルでモダンに感じられる雰囲気でした。
かつてウチで織ったものなのか、資料として持っていたものなのか、父にも分からない昔の織物でした。
絹を専門に扱う㈱ワカタベ(糸屋)さんの社員さん(須永さんという元気で博学な方)に
こういう織物を作りたいと伝えると、
それをするには織物の設計だけでなく素材から変える必要があると教えられ試行錯誤の日々が始まったのでした。
タテ糸として候補に挙がったその絹糸は、一般的な絹糸のイメージからは程遠い糸でしたが
ぼくたちが目指すイメージにはピッタリの素材でした。
ザラッとした風合いは一見絹らしくないけど、やはり絹にしか出せない上品な質感。
まるで太い麻糸のような見た目のその糸は扱い方が非常に難しく、染屋さん、整経屋さんにも
ご迷惑をお掛けしながら少しずつ扱い方のノウハウを一緒に学ばせてもらいました。
もちろんウチの工場でも苦労の連続でした。
製織だけでなく、タテつなぎでも本当に頭を悩ませました。
いつも通りにタテつなぎの機械を使うのですが、糸に癖がありすぎてその機械が役に立ちません。
その頃は工場長として大沢さんというベテランさんがいてその方がタテつなぎを担当していたのですが、
「こんな糸ムリだよ!」と指摘され、あれやこれやと試行錯誤の結果、ついには手で結ぶことになりました。
その頃は手で結ぶなんて効率が悪すぎると思っていたのですが、
糸の特徴やタテ糸の本数によっては「案外それもアリ」だと学ぶことができました。
筬を替え、シャトルの調整も変え、いろんなものを今までの常識外な工夫で乗り越えてきました。
ちなみに今は亡き祖母ムラは手でタテつなぎをする名人だったらしいです。

とても扱いにくいそのタテ糸ですが、その素材じゃなければ表現できないというものもあります。
その織物はその後も少しずつ進化を続け、現在は「grain(粒)」という八寸帯になっています。
一目見ただけではそれが絹だけで作られているとは思えない雰囲気です。
絹という素材の幅の広さがあるからこそ生まれた帯です。
OLNの看板商品の一つです。
あの時、みんなで頑張っといて良かったです。

grain=グレインと読みます。
ぼくたちだけしか作れない織物。
小さな光の粒子、繊維の粒がテーマ。

いろんなことに関して「それもアリかも?」と思う性格だからなのか
あれから10年くらい経った今、いろんな糸を経糸にかけています。
イノキヨの工場的にはもはやそれが当たり前なので人から指摘されるまで気づきませんでした。
美的喜び、誇り、豊かさを使い手と作り手の両方にもたらす織物。
そんなことを考えながら仕事を続けてきたら、いろんな素材にチャレンジしてきたようです。
麻もラミー糸が加わり(今年からオーガニックラミーだったりもします)、
コットンもいくつかの番手を織物に合わせて使い分けてます。
カシミアも進行しています。
絹糸もさらに種類を増やしています。

当然ヨコ糸の方が自由がきくので、さらに色んな素材を試してきました。
そんなこんなで結果的に素材ごとの特性の違いや扱い方も理屈として理解できるようになりました。
ほんの少しずつですけど。
見た目とか風合いとか、そういうこと以外のあれやこれやを。

5~6年前のこと、「つくりべの会全国大会」に出席したとき、
お隣に座った京都の染屋さんからこんなことを言われました。
「私は絹しか扱いません。絹だけでも極めるには時間が足りないのに
他の素材を扱っている暇はありません。」と。
ですよね。
おっしゃる通り!です。
ただ。
そこに異論はまったくないのだけれど、
他の素材を知り、比較することで初めて見えてくる絹の特徴っていうのもありますよー、と。
その特徴って絹の長所の新たな発見でもあるし、
それが欠点だとしても、考え方、扱い方によっては長所にもなったりして。
どっちがいいとかはないけれど、ぼくは自分の可能性を広げるためにも
いろんなことを知りたい。とその時も思ったわけです。
それは織物業で生きるためでもあったのですが。

ちなみにぼくが最初にタテつなぎを覚えた糸はポリエステルのフィラメント糸です。
ブランド系の京袋帯や細帯などの別注はこの糸で織っていました。
それと旅館や和食店などのユニフォームとして着用されている帯などもこの糸です。
こういうフィラメント系(毛羽のないツルっときれいなもの)の糸は、
本数も多いのでタテつなぎの機械「タイイングマシーン」を使います。

このタイイングマシーンもかなり悪戦苦闘して覚えました。
タテつなぎで大きなミスをしてしまうと、そのタテ糸が終わるまでの間ずっと織りにくい状態がつづくことになるのですが、
それって結構地獄です。
今でも自作のマニュアルを近くに置いて緊張しながらやってます。

ずいぶん前の写真。
手ぬぐいを首にかけてるから夏の頃。
この時は生糸の31中の双糸のタテつなぎ。
袋帯などに使われる一般的なタテ糸。

オルンは毛羽のある素材を好んで使うのですが、
そういう糸をタテ糸にする時は手でつなぐことが多いです。
時間が多くかかりそうなイメージがしますが、素材によっては案外手の方が正確で速かったりします。
いろいろと試してみた結果、そんな結論に至りました。

それにタイイングマシーンはぼくしか扱えないけれど、
手で結ぶのならウチは誰でもできます。
手で結ぶことに関してはぼくが一番下手なのかもしれません。
よく考えたら、そうです。(笑)

ちなみに手でつなぐ作業は誰でも覚えられるのですが、
つなぐ前の準備は、作業工程を覚えるだけでなく、
終わった方のタテ糸と、新たにかけるタテ糸、それぞれの素材と織物を理解していないとできません。
素材の違いはもちろん重要ですが、織物が変わるごとにそれぞれの「ひと工夫」があるので、
その工夫を論理的に把握しておく必要があるのです。

大沢さんの退職後、準備工程はぼくの担当だったのですが、数年前から父にも覚えてもらうことにしました。
手でつなぐ時の準備に関してはぼくよりもはるかに上手です。
こういう作業は経験の数がものを言いますが、
ここ数年の怒涛のような多種多様なタテつなぎ経験は半端ではありません。
父が本格的に工場の作業を覚えたのは実は70歳を過ぎてからなのですが、
その努力には頭が下がります。

子供のころからずっとチヤホヤされて生きてきた男が70過ぎてから突然工場の作業を覚える。
しかもその男は地元でも有名なほど「人の言うことを聞かないわからず屋の頑固者」。
そういう人が織物の準備工程のあれやこれやを身に付けるまでには
もちろん色んな物語があったのですが、
そういうことをひっくるめたすべてが今のOLN/井清織物の織物を生み出す要素になっています。

父キヨナガ。
手先はごつくて、性格は大雑把。
糸を触るときだけ丁寧。
最近、孫に嫌われないように身だしなみに気を使い始めた。
その調子で言葉使いの方もヨロシク。

父の話はそのへんにして。

つなぐときの良しあしは、いかにすべての経糸が均等に張られているかがポイントになります。
あるところはピンと張っていて、あるところは少したるんでいる。
これでは織り前(織る人がいる側)に巻き取る際にたるんだ結び目同士で絡みついてしまって、
きれいに巻き取ることができません。

そういう訳で上手な人というのははじめから終わりまでピンッと糸を張らせることが
できる人です。
はやくてまだらな作業よりも
遅くても全体にピンッとしている方が
結果的には早く本番の製織作業にすすめます。

織物の仕事は本当に「急がば回れ」が多いです。
井清織物の考え方のひとつに「要領の良さよりも丁寧さ」という言葉があるのはこういう理由です。
もちろん早く、要領よくできる方法はいつも探っています。
でも実際はそういう近道って簡単には見つからず、潔く原点にも立ち返ってまた淡々と作業をするのです。
もっともその原点の作業というのも、毎回いろんな発見があるんですけどね。

かつて「なんでも要領よく、早さ勝負の父」とは仕事の仕方について毎日口論をしていました。
人の言うことには絶対に耳を貸さない父ですが、さすがにいろんな失敗と成功を現場で実際に経験すると
ぼくの言うことにも一理あると思ったのでしょう。
今は素直に聞いてくれてます。(笑)

先を急ぎすぎず、目の前の作業に集中する。
タテつなぎの時に大事な心構えを、このブログを書きながら思い出しました。

GWの5日間に予定されていた東京着物ショーの延期(1年後)が発表され、その翌週の富岡「道楽市」秋に延期。

東京着物ショー
東京キモノショーのガイドブックが届いた、その数日後に延期の発表。
さぞかし悩まれたことと想像する。
世界遺産でおなじみの群馬県富岡市。
おかって市場という場所で開かれているクラフトフェア「道楽市」。
なぜか写真が準備中のコレしか見つからなかったけど、でも会場の雰囲気はこんな感じでのどか。
食もクラフトもクオリティーが高くて満足度の高さに定評のある人気のイベント。


他にもさまざまなイベントが中止になり、厳しい現実に打ちひしがれそうにもなりましたが、いやいや「今できる目の前のことに集中!」ですね。

やれることはいっぱいある。
自分次第。
これぞものづくりの自営業!

それではみなさん素敵な4月をお過ごしください!

オルンショップ入り口の葉桜。月刊OLN 2020年3月号

月刊OLN202 0年5月号

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