月刊OLN 2025年4月号

いかがお過ごしでしょうか。

大変ご無沙汰しております。

こちらは相変わらず自主的に日々変化し、また、環境・状況の変化にも対応するという、そんな毎日を送っています。

さて、突然ですが最近ぼくの頭の中を占めている「分業」について考えてみたいと思います。

(実は今「大大阪めーかんえぽっく」という西日本では最大級のキモノイベント出展のために特急りょうもう号に乗りながら書き始めています。)

いつもであれば夫婦揃っての出張になるのですが、翌週には「東京キモノショー」というさらに大きなイベントが控えていて、さすがに2週連続で子供たちに負担を掛けるのはまずいだろうということで、ぼくが一人で行くことになりました。

問題は展示販売のイベントに行くのが、普段接客を得意としない、作り笑顔がいまだにできない「ぼく」というおじさんが行く、ということ。

OLNの公式インスタをやっているしのさん(妻)はSNS上でもDMでもOLNの顧客やファン(と呼ばせていただきます)と楽しく交流をしていますし、リアルの接客でも女性同士ならではの距離感でいつも楽しそうにコミュニケーションをとっています。

また、しのさんによるコーディネートの提案などは結構好評のようで、お客さんが目をキラキラしているのを傍目で見つつ、満足していただいてるなあとたびたび実感しています。

展示会やポップアップなどでの商品の並べ方、見せ方などもしのさんの方が圧倒的に長けていて、そのおかげで井清織物の結果も伴って来たので、基本的にはぼくは指示された通りに動くことに専念した方が効率も良いし、個人的にも楽だ、と分かりました。

他にも展示会前の準備、例えば商品の選定や紙ラベルの縫い付け、段ボール箱への梱包、送り状の準備など、地味だけど意外に手間と時間を多く必要とする作業なども(筋力を必要としないものは)基本的にはしのさんに任せています。

その代わり、ぼくはOLNの世界観にあった什器を見つけてきたり、加工したり、あるいは自分で作ったり、そういう元々好きな裏方作業に徹しています。

この役割分担が10年くらいかけてようやく出来上がってきたこのタイミングで、不慣れなおじさんが一人で行くことになったのですから、それはもう大変です。

準備の段階からあれがない、これがない。あれってどうやるんだっけ?と久しぶりすぎて分からないことが続出。

とはいえ、元々は自分でもやっていたし、一緒に考えてきたことなので、勝手が全然わかりません、ってことではないんです。

むしろ、しのさんとは違う視点で改善点を見つけたりすることもできそうです。個人的にも多くの発見や学びもあったりして。

多分明日からのイベントでも同じようにいろんな学びを感じるんだろうな、と東部沿線ののどかな景色を見ながら想像してます。

(今回は移動中に書いてみたいなと思いまして。)
(それっぽくて格好いいなと。)

そう思うと、色々と不安に思っていたことがすべて「チャレンジ」に思えてきて楽しみになって来ました。


話が変わって、父のことなんですけど。

数年前に母の体の具合が悪くなったため、父は今まで全くやってこなかった家事を一人でやるようになりました。

そして昨年夏に母が亡くなったことで、完全に父の一人暮らしが始まりました。(とは言え、隣の家でぼくらも暮らしてますけど)

当初はご飯の準備とか洗濯とか掃除とか、指示とかダメ出しは得意だけど自分でやったことはないから、面倒見なきゃダメだよなあ、でもあの気難しい性格だから一緒に生活するのは大変だろうな、って考えてました。

ところが。

父は自分でやると言い。実際、家事をやってみたら案外、ちゃんとできていて。

それを身近で見ていて思うのは「今までやってくれる人がいるからやらなかっただけで、もともとできる人だったんだ」ってことです。

というか、むしろ。

母の好みで朝は食パンだったけど、父はお米に変えたらしく、そしたら体調(特に胃腸)が良くなっちゃった、みたいなことも起きていて…。


また話が飛んで、今度は織物の仕事について。

織物業は高度に分業化が進んだ産業だと言われています。

僕たちが織る前に実に多くの業者さん、職人さんが関わり、その工程数は半端ないっす。産地や織物の種類によってもバラバラですから、すべてを把握している人なんていないでしょう。

そもそも糸にもいろんな種類(素材や形状)がある訳だし、織機に関わる業者さんだったり、糸を染めたり、糊を付けたり、巻いたり、あるいは紋様を作る工程だったり。

また織った後の後加工でも多くの工程が待っています。

さまざまな染色方法だったり、生地を整える整理加工だったり、アパレルではダメージ加工とかもありますね。

織物の一連の流れの最終段階でもある縫製業だけ取って見ても、細分化されたさまざまな技術、工程があることはなんとなく想像がつきますよね。

織物を作っているそれぞれのつくり手にとって、自社のオリジナル性を発揮するため必須の技術というのものが、実は他社の技術に支えられていることは珍しくありません。

これこそ分業制の最大の強みです。

OLNだって「あの糸がなければ作れない」というぼくたち独自の織物はいくつもあります。

それぞれが専門性を活かすことで、それらが足し算ではなく掛け算になる。無限の工程で相乗効果が発生する、まさに職人集団・ニッポンの強みです。

しかし同時に「あの工程をお願いする職人さんが廃業したらもう作れない」というリスクも発生します。

と言いますか、OLNを始める前からそれはウチでも業界全体でも大きな問題にはなっていました。

その解決方法は①他社、他産地で代わりを見つける②その技術をどうにか覚えて内製化する③その技術を捨てる、そんなところでしょうか?

ぼくらは①②③の全てが当てはまります。

しかし、ぼくらにとって特に大きな意味を持ったのは②の「無くなる技術の内製化」でした。

何年にも渡って少しずつ覚えていった結果、タテ糸をつなぐ作業、織機の修理、オサ抜きなどなど、他にも織ること以外の作業が本当に増えていきました。ぼくが織物業に入った20年前には想像していなかった機屋(はたや:織物業のこと)の姿です。

そもそも20年前では、自分たちで価格を決めて、小売店さんに直接卸すなんて想像すらしてませんでした。ましてや自分で小売までするなんて!

ぼくたちは単純に、織物業として生きていくために必要に迫られて分業性とは反対の方向へ舵を切ったわけですが、結果的にはこのフットワークの軽さがOLNの強みにもなったのだから不思議なものです。

ここまで書いて来てやはり思うことは「分業はすごく効率がいい」けど、本当に「効率を優先することがいいこと」なのか?ってことです。

何か得意分野に専念できることは効率的(=経済的)だし、幸せです。でも得意分野以外でも学べることが多いし、たまに経験するとすごく刺激的です。

新しい自分に出会えたような感覚にもなります。

誰かがやってくれないなら、自分でやるしかない。

そのおかげで「生きてる」実感を強く感じることがあります。

(ちなみにただ今、新幹線に乗っておりまして、横浜駅も過ぎたあたりです。新鮮な一人旅を過ごしています。不安よりもフレッシュな感覚があります。)


5年位前でしょうか、デービッド・アトキンソン(元ゴールドマン・サックスで日本の伝統建築を手がける「小西美術工藝社」の社長さん)さんがこう言ってました。「日本は中小零細企業が多すぎる。大企業以外は効率が悪いから、小さくて利益が出せない会社はどんどん無くして、日本の人材を優良な大企業に集めた方が良い」と。

確かに考え方は正解なんだと思います。

でもその理屈と「働く人が幸せに生きているか」ということとが直接つながらないこともあるよなあ、って思うのです。

だってぼくたち、すごく面倒くさいことやってる割に利益がそれほど…。笑

でも毎日充実してるんですよね。(妻や子供に苦労はかけてますけど)

正直、ぼくの人生はおじさんになるに連れ年々良くなってるんだよなあ、と。(あくまで個人の感想です)

一般論としての正解はあるけど、実際は無限に存在する「例外」のうち、自分にとっての「正解」を見つけられればラッキー、みたいなことなんでしょうかね。

ちなみに。

現在ぼくは自分で仕事のルールや会社(とってもほぼ家族)の方針を決めて、いい意味で公私混同した毎日を過ごしています。

「好き嫌い」や「納得がいくいかない」を判断基準の上位においてきましたが、それに対してご指摘をいただくこともありました。しかし、そうじゃなければ出会えなかったような人も沢山いまして。むしろ経済の論理ばかりを優先させなかった姿勢を評価し、信用していただいているお取引先も多いかもしれません。

急がば回れと言いますか、結果的にはこれで良かったんだろうなと感じています。

こういうやり方しか続けられない気もしますし。

そんな訳でこれと言った結論はないのですが、久しぶりに長々と書いてみました。

「分業」とか「効率」って、皆さんはどんな風に考えますか?

聞いてみたいです。

今後の予定

Instagramではちっちゃく告知してますが、あらためて。

「キモノめーかんえぽっく」
4月12日(土)10時〜18時
4月13日(日)10時〜17時
場所:グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場12階)

「東京キモノショー」※サテライト出展
4月18、19日(金、土)12時〜19時
4月20日(日)12時〜17時
場所:人形町ヴィジョンズ(東京都中央区日本橋堀留町2丁目2−9 ASビル1F)

5月は「OLNのシャツ展」と「自分で染める帯揚げワークショップ」を企画しています。

終わりに

新幹線も名古屋を過ぎて次は京都です。

久しぶりの月刊OLN、いかがでしたでしょうか?

こんな感じで仕事上の義務ではなくて、ほんとに書きたいことを書けたら楽しいなって感じです。

それでは皆さん良い4月(もう中旬ですけど)をお過ごしください。

NIPPONの47 2025 CRAFT(47の意志にみるこれからのクラフト)NIPPONの47 2025 CRAFT(47の意志にみるこれからのクラフト)

関連記事

  1. 月刊OLN 2022年6月号

    月刊OLN 2022年6月号

    ご無沙汰しております。みなさまいかがお過ごしでしょうか。こちらは色々と忙しくやって…

  2. 月刊OLN 2021年9月号

    月刊OLN 2021年9月号

    みなさんこんにちは。いかがお過ごしでしょうか?今年の夏はどんな夏でしたか?我が家は…

  3. 月刊OLN 2020年9月号

    月刊OLN 2020年9月号

    みなさんこんにちは。最近、朝の早い時間帯は涼しくなってきましたが、日中はまだまだ猛暑、酷暑…

  4. 月刊OLN 2022年10月号

    月刊OLN 2022年10月号

    こんにちは。いかがおすごしでしょうか。ぼくたちはと言えば…。コロナのおかげ…

  5. 月刊OLN 2019年10月号

    月刊OLN 2019年10月号

    今朝散歩をしようと家から出てたとき、ウチの工場や近所のおうちの屋根の上にはみごとに真っ赤な朝焼けの…

  6. 月刊OLN 2021年7月号

    月刊OLN 2021年7月号

    みなさんこんにちは。いかがお過ごしでしょうか。こちらはといえば、久しぶりにやらかしました。…

  7. 月刊OLN 2022年7月号

    月刊OLN 2022年7月号

    ごぶさたしております。まさかの6月の梅雨明け。それ以降、猛暑が続いた日々でしたが、みなさん…

  8. 月刊OLN2023年08月号

    月刊OLN2023年08月号

    大変ご無沙汰しております。今年は昨年末から工場での作業が忙しく。ありがたいことに今…

PAGE TOP