そこにあるからという理由
4月16日、しのさんと長女と3人で寺尾紗穂さんのライブに行ってきました。
場所は軽井沢の北軽井沢ミュージックホール。
こちらは1968年、日本初の音楽学生のための夏期合宿施設として作られた「山の音楽堂」で、若かりし日の小澤征爾氏など、音楽家を志すたくさんの若者がここで夏を過ごしたそうです。
ぼくたちはにとってはもちろん初めての場所でしたが、どこか懐かしさのある素敵な場所です。
オルンショップでいつもかかっているピアノの曲があるんですけど、あれは実は寺尾さんの作品の中のほんの数曲をリピートし続けています。
そんな勝手に感じるご縁もありますが、ああいう作品を作ってる寺尾さんて一体どんな風なんだろうという興味が以前からありまして。
彼女の雰囲気とか、佇まいをリアルに感じてみたいなあと。
実際、演奏と同じくらい、それぞれの曲にまつわる彼女の語りが意味を持っていたライブだったので、ぼく的にちょうど良かったです。
全国各地に土着的に存在する唄をライフワークとして調べていたり、自身のさまざまなな興味を掘り下げ、それをやがて書籍や楽曲にまで昇華させているその様子は、真摯で誠実な音楽家で、詩人で、学者で、語り部(べ)でもありました。
そして。
この日に使われたピアノにまつわる話を教えてくれました。
そのグランドピアノはいつ、だれに寄付されたものなの分からないまま、長い間この施設にあったらしいです。
「ここにピアノがあるのなら、きっと弾かれてほしいはず」と誰かの手によって調整、調律をされ、そうして今、現役で活躍しているとのことでした。(記憶があいまいですけど、たぶんこんな感じのストーリーだったと思います。)
「なんか分かるなあ、その感じ。」
そのエピソードを聞いて、ぼくも不思議な感情がじわーっと湧いてきました。
そしてウチの工場の風景が頭の中に浮かんで来ました。
ぼく個人の気持ちととかはいったん置いといて、「そこに織機がある」という環境というか状況が過去にありました。その時ぼくもピアノを直した人たちと同じような気持ちだったような気がします。
その決断が正しかったのか、途中で分からなくなりそうな時もありましたが。
今となっては、結果的に正解だったと言えるし、良い巡り合わせだったと、ぼく個人としては思っています。
そして、ウチの織機たちそう言っているような気がします。
これからのオルンについて
最近、しのさんと同じような内容で何度か話し合ったことがありまして。
オルンのこれからについて、です。
これからの目標というか、方向性を。
オルンを始めて今8年目くらいですが、家業である井清織物を立て直そうと勝手に帰郷してから数えると18年目になります。
これまでずっと、ただただ必死にやってきて、その中でいろんな事に挑戦してきました。
わずかなチャンスでも逃すまいと、というか、ちょっとしたミスが命取りになりそうな毎日だったので、結構、緊張感の続く日々でした。
そうやって様々な経験を積んでいく中で、少しずつ自分たちの仕事のやり方が見えてきたように思います。
純粋に面白いと思えること、ワクワクするようなこと、きついけどやりがいのあること、すぐに結果は出なくても将来必ず役に立つようなこと。
そういうポジティブな気持ちと仕事の成果とのバランスの取り方は、自分たちのやり方次第でやれることも分かってきました。
きれいごとだけでも織物業は成立するはず、というかつて立てた仮説はどうやら実現したみたいです。
覚悟やリスクも引き受けた上での取捨選択。
それと、一緒に仕事ができて嬉しくなるというか、誇らしく思えるような人たちにも多く出会いました。
ぼくたちがそう感じている人たちの共通点は、会社やブランドの規模や強さではなく、やっぱり人間性がぼくたちにフィットしているのだと思います。
おそらく、相手も同じように感じているのではと想像しています。
人としての「質」の部分で共感しあえているのだろうと。
決して「量」とかではないよなー、と。
そんないろんな考えを巡らせていると、自然とぼくらが進むべき方向が見えた気がします。
いわゆる経営者目線で追求する大きさや強さなど「量」はとりあえず後回しでいいのかも、と。
ぼくたちは「質」を磨くほうに進むべきなんじゃないかな、と。
そうすることが、今よりもさらに多くの「ワクワクできる仕事」にたどり着ける道のど真ん中を歩くことになるじゃないのかなと。
そもそも、量や金額など数字を追求することをオルンの仕事の軸にしようとすると、今とは向き合い方が変わってきそうで、なんだかもったいない気がします。
そんな訳で、これからも時には勇気をもって、挑戦と変化をし続けていきたいなと思っている所存でございます。
5ー9キモノ
今年も5-9kimonoの帯を手掛けさせて頂きました。
織物の種類としては麻と和紙を使ったもので、オルンのウィンドミルと読んでいる八寸帯や半幅帯と同じタイプになります。
今回は和紙の糸も別注のオリジナルカラーで染めたり、風合いも5-9kimono仕様ということでオルンのものより少し硬めに仕上げているなど、ちょっと特別なものになっています。
しかも今回はへこ帯なので、価格も抑えてあります。
デザインはお馴染みの木越さん。
今回も織物の特徴を理解した上でデザインしてくれていてるので、機屋としては本当に仕事がしやすく助かります。
おかげさまでいい商品になりました。
ぜひ5-9kimonoを扱っているお店でご覧くださいませ。
おわりに
相変わらず、ぼくらはひたすら織っています。
年明けからずっと続いてきた別注のお仕事もゴールまであと少し。
OLNの商品も在庫切れが目立っていて、いろんな方にお待ちいただいていますが、それらももうすぐ手掛けられる状況になりますので、もう少々お待ち下さい。
何はともあれ元気に頑張ってます。
そんな訳でみなさんも、素敵な5月をお過ごし下さい。
また来月~。