月刊OLN 2025年 5月号

みなさんいかがお過ごしでしょうか。

4月のOLNは大阪のめーかんエポック、翌週は東京キモノショーと大きなイベントに参加して、5月は桐生のOLN shopで「浴衣シャツ」を発表したり、「帯揚げストールの手描きワークショップ」を開催したり、週末は渋谷のポップアップイベントにしのさんがアテンドしたりと、とても活動的です。

ぼくはと言えばまだ織れていない今年の夏物の新作に取り掛かったり、父は欠品中の半巾帯をひたすら織ったりと、工場は工場で忙しくやっております。

そんな中、京都では現在「NIPPONの47 2025 CRAFT in KYOTO」が開催中でして、そこでもぼくたちの織物を見て頂いております。

D&DEPARTMENTさんが企画してくれたこの展覧会ですが、昨年11月末から今年の3月までは渋谷ヒカリエで開催されていて、(たぶん)好評だったこともあり、急遽、出展者を厳選(たぶん!)して京都でも開催して頂いているようです。※京都展は6/3までやってますのでお近くの方はぜひ!

渋谷で開催される前も時もそうでしたが、今回の京都開催の前にも京都スタッフの皆さんとオンラインミーティングが行われました。

それがなんとも熱心で。

ぼくらの話(織物だけでなく、考え方や感じていることに対しても)を前のめりに聞き出してくれました。D&DEPARTMENTさんの社風なんでしょうか。

こういうの単純に嬉しいです。

D47での展覧会が終わってしばらくしてから郵便物が届きました。その中にはナガオカケンメイさんの署名入り「認定書」と、スタッフの皆さんがまとめてくれた「実施報告書」も同封されていました。

来場者数や販売実績だけでなく、会期中に販売スタッフが感じたこと、実際の売り場での顧客の声など、今後のぼくらの参考になればという思いが伝わってきます。

以前であれば、「おお、ナガオカケンメイさんのサインじゃん!」って喜び、それで満足していたはずなのですが、今回はキュレーターの黒江さんを始めとする実働部隊の皆さんの顔が思い出されて、最後までキメの細かい作業をしていただいたことに感動しています。

もちろんボスであるナガオカケンメイさんあってのD&DEPARTMENTです。ですが、OLN的には実際にお会いしたり、打合せなどをしたスタッフの方たちに意識は向かうし、そういう人たちに感謝だったり、恩返ししたいなあ、だったりが実感として強いです。

あれ、ぼくって昔からこういう風に考えていたんだっけ?

いやそうではなくて、少しずつ変化してきたような気がします。

これって「どこを向いて仕事をしているのか?」という話なのですが、今回はこのテーマについて考えてみたいと思います。


時計の針をギュルギュルっと一気に巻き戻すこと約8年前。

2017年11月、ぼくらがOLNの活動をはじめて4年目に差し掛かった頃、ナガオカケンメイさん率いるD&DEPARTMENTから冊子が販売されました。

”d design travel GUNMA”

「デザインの目線」で綴られた各都道府県の観光ガイドブックの群馬版です。

この冊子には本には桐生で良く知る人たち、ブランド(000トリプルオーさん、priretさん、リップル洋品店さん、センバタヤの畠山陽子ちゃんなどなど)がいくつも紹介されていました。

でもぼくたちはそんな取材が地元で進んでいたことすら全く知らないほど、話題にも、相手にもされていませんでした。

周りにはあまり言いませんでしたが、ぼく個人としてはすごく悔しくて、でも正直、力不足なのも分かっていました。

高望みだったということも理解しています。

とはいえ、当時の井清織物の経営は相変わらずの”どん底状態”邁進中だったので、とにかくチャンスを見つけては爪あとを残さなきゃ!と必死な時期でした。

その頃のぼくはと言えば、権威や影響力を持つデザイナーやギャラリーに気に入られたい!有名雑誌やショップに取り上げられたい!と日々焦っていました。

どんな形でもいいから、一日でも早く軌道に乗せないと、自分たちの給料が出ないなんて当たり前で、そんなことよりも銀行への返済が…。そんな状況です。

思い返すだけで胸がキュンと苦しくなります。

もちろん周囲にはそんな厳しい状況だとは悟られたくないので言えません。

今、書きながら当時の頃のことを思い返していたら、大事なことを思い出してきました。

「ぼくらの一番の売りは見た目のデザインじゃない」って、その頃からちょっと割り切って考えるようになっていった気がします。

もちろんデザインは超重要ですけど、そもそもOLNの活動に託した思いは「きれいごとでも成立する織物業の在り方」でした。

※ここで言う「きれいごと」とは、呉服業界の複雑な商習慣や、ヒエラルキーにとらわれず、もっとシンプルにつくり手、つたえ手、つかい手が対等な関係で取引をするイメージ。

それを実践するには、流行に乗ることを優先したり、大量生産などをするよりも、ひとつひとつの価値を高めるために丁寧に作って、適正価格を付け、それらを継続的に大切に販売していく。ぼくらが織物業で生きていけるとしたら、そんな感じしかないのでは?と考えていました。

そもそも日本中を見渡せば優れたデザインや斬新なコンセプトを生み出す達人たちで溢れ、その人たちと同じ土俵で戦ったとしても、すぐに埋もれてしまうだろうと感じていました。

・だから商品単品が写真映えしなくても、実際に身に付けた時、その人が素敵になることを優先しよう。
・パッと見のインパクトは弱くても、長い期間(できれば10年くらいは)愛着を持てるようなものを作ろう。

・そのためには性別や世代関係なく、和装洋装も関係なく、時間や文化を飛び越えても価値が変わらないような普遍性のあるものを作る必要がある。
・だから素材や作り方には凝るけれど、最終的な見た目はあくまでもシンプルに仕上げよう。

・それと、作る工程でのズルや、販売促進のためのウソは絶対なしでいこう(どうせいつかバレるから)。
・あと、人からされて嫌だったことは、ぼくらは絶対にしないようにしよう。

これはOLNを始めるときに決めたことですが、それを日々考えながら仕事をしていて、その考えがブレたことは一度もありません。

家業の立て直しに気持ちは焦るけど、ビジュアル的にキャッチ―なものが作れない自分。

井清織物が終わっちゃうのが先か、OLNが軌道に乗るのが先か。毎日ビビッて、毎日緊張しっぱなしでした。


あれから時は流れて2025年、現在。

まだまだ頼りない状況ではあるけれど、かつて描いた理想の織物業のカタチを実践できるようになりました。

人との出会いにも沢山恵まれてきました。

それこそ憧れのデザイナーさんと一緒に仕事ができたり、日本各地(とまではいかないけど)にOLNの織物を取り扱ってくれる取引先ができたり。

こういう人たちがぼくたちの存在を認めてくれて、必要としてくれて、そういう一つ一つの積み重ねが、ほとんど失いかけた自信と誇りをちょっとずつ取り戻すことにつながったのだと思います。

それともう一つ。ぼくたちに大きな影響を与えてくれている存在が全国の着物ユーザーだったり、織物雑貨を手にしてくれている一般顧客の皆さんです。

OLNの活動を通して、ぼくらの織物はどんな人の役に立っているのかを解像度高く知ることができるようになったし、時には応援されて背中を押してもらうこともあるし、そういう経験を次のものづくりに活かせるようにもなりました。

「どこを向いて仕事をしているのか?」というテーマで話を進めてきましたが、現時点でのぼくの答えは、

今、OLNの織物を仕入れてくれている小売店さんとそのお店の顧客の皆さん、あるいは桐生のOLN shopや展示会、ポップアップ、ウェブショップなどで買い物をしてくれている皆さん、そういう人たちに喜んでもらえるように仕事をしているんだな、って再確認した感じです。

結局、ぼくはお客さんから「今、目の前のことに集中」することが大事なんだって教わった気がします。

当たり前っちゃ、当たり前なんですけどね。

ただ、逆に言うと、「そっちを見て仕事をしてはいけない」という相手も、OLNでいろんな経験を詰めたから知ることができました。

それは、ぼくら産地の人間を便利な道具のように考えている人や会社、お願いしていないのにダメ出ししてくるカリスマやその周囲の人、など。

「一緒に仕事をしたら箔がつきそう」とか、ぼくらが下心を持って相手の都合に合わせても、上手くいかないもんです。すごく振り回されたけど、結局利益もほとんど残らず、でもストレスだけはすごくて、みたいな。これは自分の反省も含めて、です。


話は戻って。

“d design travel GUNMA”の挫折から8年経って、ぼくらの意識も健全に成長した今、改めてD&DEPARTMENTさんから声をかけてもらえたのだから不思議なものです。

しかも企画展の趣旨は「47の意志にみるこれからのクラフト」。

デザインではなく、意志というのが嬉しかったです。

ぼくたちの活動をちゃんと見てくれたんだって思いました。

ちなみにキュレーターの黒江さん。2023年に八王子で開催されたテキスタイル系クラフトフェア「道草”恋する布市”」で普通にお客さんとしてtear(テアー:OLNのストール)を購入してくれて、その後、奥田染工所さんの「布類計画室」のオープンイベントで再会。「海外に持って行くとよく褒められるんです!」って感想を伝えていただきました。

そっか、実際に使ってみて、それでもやっぱり良かったって思ってくれたんだ。

いやあ、嬉しいっすね。

ちなみに「道草”恋する布市”」も「布類計画室」も、どっちも奥田染工さんとのご縁がきっかけです。奥田さんにはまたご恩ができちゃったな。

奥田さんのことを考えていたら、「どこを向いて仕事をしているのか?」の答え、もう一つあるって気付きました。

それはぼくらの意識やレベルを向上させてくれる、指針や目標となるような人たち、です。

そういう人は実際にお会いしたり会話をしたことで影響を受けた人もいるし、書籍や作品から勝手に刺激や教えを感じ取らせてもらっている人もいます。

そういう人の言葉や作品を身近に置くことで、いいイメージを感じられたり、目線や志を少し上に持ち上げたりと、勝手にお世話になっています。

だから、ぼくにとってのナガオカケンメイさんはそっち側の人です。

かつて座談会で教わったことは今でも心に強烈に刻まれたままです。でも、あまり意識しすぎないようにも心がけてます。

そうじゃないと理想に引っ張られ過ぎちゃって、上手くいかないんですよね。いろいろと。

なので正確に言うと、指針や目標となるような人たちのことは常に頭の片隅にあるけど、その人たちに向けて仕事をしている訳ではない、ってことです。


産地で生きるの各工程の皆さんのおかげでぼくらは良いものを作ることができて、それに必要な値段をつける。それに価値を感じた店主は仕入れて、お店で顧客に伝える。それに魅力を感じたお客さんはお店に対価を払ってくれる。しかも喜んでくれて、感謝までされる。

それぞれの立場は対等で、互いに感謝し、喜びが循環し、みんなが少しずつ豊かになる。

今のぼくたちにとっては当たり前の風景ですが、実はOLNを始めた10年前に思い描いた理想の姿、つまりOLNの目標がこれでした。

「CRAFT」という冊子でも、ぼくの紹介文としてそのことが書いてありました。

10年前では仮説のような目標が、いつの間にか当たり前の現実になっていました。

10年前より売上が倍になった訳でもなく、従業員が増えた訳でもなく、工場に冷暖房が設備された訳でもないですが、ぼくとしては一番大切にしてきた願いが(いつのまにか)叶っていたので、すごくいい人生を歩いているなあと感じています。


自分の心というか頭の中で実際どう思っているのか、それを知りたくて文章にして整理してみました。

結局、今回も長々と書いてしまいましたが、最後までお読みいただいたお優しい変わり者の皆さま、誠にありがとうございました。

前回のブログのように、気軽に皆さんの感想をお聞かせ下さい。

ではまた。

月刊OLN 2025年4月号月刊OLN 2025年4月号

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