月刊OLN2023年08月号

大変ご無沙汰しております。

今年は昨年末から工場での作業が忙しく。

ありがたいことに今期はいろんなお取引先から注文をいただけるようになり、特に今年の夏は久しぶりに全国各地で夏祭りが開かれそうだ、ということもあっての需要かと思われます。

仕事が途切れることなく、とは言ってもウチは一人一台の織機を動かす仕事のやり方。だからぼくと父なら2台。しのさんが入っても最大3台なので生産量自体は大したことはありません。

効率が悪そうですが、案外このやり方が今のぼくたちには合っているようです。

とにかく地道にコツコツ作戦。

そして今年の仕事の前半のクライマックスは4月の終わりから6月中旬までの製織に取り組んだプロジェクト。

それを発注してくれたのは、東京の某ブランドで。

ぼくにとってそのデザイナーさんと仕事をするってことは、大げさに言うと人生の目標でした。

どの取引先との仕事も優劣の順位なく、誠実に仕事をしているいます。

しかし、時々、特別な思いで仕事をする時があります。

理由はさまざまです。

今回はまずその某ブランドのデザイナーさんの説明からさせてください。

ーーーーー

彼のことを知ったのは、30歳にして飛び込んだ未知なる世界”繊維業界”を勉強するために購読していた雑誌「装苑」での取材記事。

その後も繊研新聞、NHK、各雑誌で見かければ切り抜き、録画などをしていました。時にはブランドのカタログを買ったり、実際に店舗へ行って小さな買い物などをして少しでも知りたい、感じたい、と興味は深まるばかりでした。

正直に言えば、織物の仕事に携わって初めて憧れた人物です。

ぼくが好意を抱いた理由は2つ。

ひとつはそのクリエイション。

彼が生み出すテキスタイル、服。それと詩とか散文。

とても気の利いた絵本のような世界観。

他の誰も手を付けていない場所を一人で切り開いているように感じられました。

流行からは一歩引いたような。

ファッション業界のことを理解していないぼくから見ても、メインストリームをあえて無視して、もっと小さく強固な世界を作っているように感じました。

詩とか散文はそのテキスタイルでの表現を、さらにイメージを膨らませてくれます。

そういう言葉の世界に没頭していると、普段の織物業とは別世界の、より自分らしい感覚になれたのです。

そのデザイナーさんを好きになった理由のもう1つは、現実問題として重要な産地や顧客との付き合い方。

彼はよく産地や職人のことを大切にしている発言をしていました。

そしてスタッフや顧客のことも同じように。

それらは言うのは易し。

産地で何年か仕事をすると東京で働く人(企画、販売、デザイナー側)と、地方で働く人(現場で織物を作る側)とでは上下関係があることに気付きます。

産地でいくら作っても、それをお金に替えてくれる人たちがいなければ仕事として成立しないので当たり前かもしれません。

しかし、同時に、産地がなければものを作りたくても作れないのも事実です。

職人が年々廃業を続けるこの業界では、どちらも持ちつ持たれつ。

一時、ものづくりが中国へ急速に移行していました。

特に縫製業界がすごかったらしいです。

「日本のものづくりはもうだめだ」という発言もしばしば目にしました。

しかし、いつの頃からか、風向きが変わり、事情が変わってきたように感じます。

各メディアでも「これからは国内の産地を大切にしたい」との論調が。

しかし、実際に周囲から聞く話はなかなか厳しいものばかりでした。

大手取引先が産地にシワ寄せ押し付けるなんてのは「あるある」で。取引先の大小関わらず(ぼくが経験してきたことを照らし合わせても)、それらの「きれいごと」は本気で思っていることではなく表面的なパフォーマンスだということは明らかでした。

ただ、そんな中、ぼくが憧れたそのデザイナーさんも同様の発言をしていましたが、その内容の深さが全く違いました。

実際に産地との取組や、職人からの言葉などが紹介されると、その真実味が増していきました。何か地味だけど本気を感じました。

産地に対して好影響を与えることができるだけの資本力のある会社ですら、産地を「装置」の一つとして扱っている現実。それを知っているだけに、(まだまだ規模の小さな)彼の行動を伴った産地との「誠実な」付き合い方は、ちょっと異質に思えました。

産地とブランドとの間に流れるリスペクト。

それは数年では決して築くことができない信頼関係なのだと感じます。

職人の作業では設備や材料以外にも、新たな取り組みをする時には時間、労力という費用が発生しています。彼はそういう小さな課題を無視していないように思います。

どういう関わり方で仕事をすれば、お互いにとってベストになるのかを極めて現実的に考えている気がします。

オルンは、創作物としては静かだけど、力強く優しいものを目指していますが、そのために解決しなければならない現実的な問題にはかなりゴリゴリにマッチョに戦ってきました。

時にはものづくりの苦労よりも、はるかに苦しい課題もありました。

ぼくは織物工場の立場から、どうやったら自立できるのかをずっと考えていたので、そのデザイナーさんがいかに深く考え続けて、その結果として産地のことを口にしているかがぼくには痛いほど分かりました。

ただ、ぼくたちがオルンを始めてからは、あえてそのブランドに関する情報は目にしないように心がけてきました。

もうファンはやめようと。

ぼくは憧れの人物とは対等の立場で付き合いたない、と思うところがあって。

タモリもみうらじゅんも、そのデザイナーさんも、出会ったときにに「ファンです!」じゃなくて、普通の挨拶で出会いたいと考えてきました。

で、今年、ついに一緒に仕事をしてみて。

実際は担当してくれたのはそのブランドの若手デザイナーさんでした。

全然問題ありません。

むしろ、そのブランドのデザイナーとしては経験の浅いスタッフですら、彼が今まで語って来たスタンスで僕ら産地の人間と向き合ってくれるってことを知れたのが、すごく嬉しかったです。

彼が言ってたことは嘘じゃなかった。

本気で、仕事をきれいごとで成立させようとしている!

ぼくと同じだ。

昨年末、最初の打ち合わせで東京のオフィスに出かけた時、ぼくはしのさん以上に緊張していました。

理由は「仕事が成立してほしいな」ということよりも、「ガッカリしたくない」ということの方が強くて。

なので驚くほど気持ちよく話せたその商談後の帰り道は本当に嬉しくて、スキップしたり、ちょっと軽めに叫んでみたり、特急りょうもう号でビールを飲みながらジーンときたりと。少し話せばだいたい分かりますよ。相手がどんな気持ちでぼくたちに接しているか。

上から目線ではなく、ぼくたちの弱みに付け込むこともなく、生産キャパの小ささも理解し、お互いに無理なく、最適解を一緒に導きましょうというスタンス。

その前提として、そのブランドの顧客を絶対に満足してもらうために、という強い信念。

一緒にお仕事をさせてもらって感じた、体の奥底から感じるつくる喜び、誰かと一緒に味わうつくる喜び。

織物業、いいねえ!です。

結局、最後まで気持ちよく集中して仕事ができました。

僕がかつて憧れたデザイナーさんが言っていた産地との関係。それが表面的な発言ではなくて、若手スタッフさんにまでイズムとして伝染していることが、本当に嬉しかったです。

この仕事の希望であり、可能性だと思います。

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フォルッサ・テキスタイル・ウィーク

最後にちょっと報告です。

ずっとバタバタしていて、その後、ぐったりしていて、全然告知できなかったのですが、8/19.20でフォルッサ・テキスタイル・ウィークというものに参加してきます。

場所はフィンランドです。

え!?

チームジャパンのリーダーは富士吉田「装いの庭」代表・藤枝さん。

ここ数年、なんやかんやとお世話になってます。

十数社が日本から参加します。

詳しくは帰ってから。

そろそろ自宅を出発する時間なので。

ではまた。

素敵な夏の終わりをお過ごしください。

そして残暑厳しい折、くれぐれもご自愛のほど。

月刊OLN2023年5月号

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