月刊OLN 2023年1月号
明けましておめでとうございます。
年が開けてからだいぶ時間が過ぎましたが、一応あいさつとして。
年明けすぐの展示会「kimono showscase」に新作を間に合わせようと年末年始、けっこうずっと作業しておりまして。展示会が終わったあとも引き続き作業が立て込んでおりまして…。そんな訳で月刊オルンも遅くなってます。
綿の半巾帯,、en cotonの新柄「雪花」
大人のためのへこ帯、heccoの新作「fog garden」
そして絹の八寸帯「草紋」
これらの新作はどれも出発直前まで試作を繰り返していたのですが、なんとか無事にサンプルが間に合い、お取引先からのオーダーもいただけました。
先にご注文をいただいている別注の帯(いわゆるOEMです)を作りつつ、手分けしてOLNのオリジナルも頑張って作っている感じです。
展示会までの数週間は図案を書いたり、PCで紋紙データを細かく修正したり、糸の必要量を計算して発注したり、染めの指示を出したりと、頭と目と指先をフル活用の日々でした。
しかし展示会が終わって、実際に本番の帯を織る段階になると、それまでとは打って変わって仕事の感覚が別モノになるので少し戸惑います。
今回はその感覚についていろんなことを感じたので書いてみます。
シャトル織機はヨコ糸が終わると自動で織機が止まります。
杼箱(ひばこ。織機の両端にあるシャトルの収まっている棚のような装置)からそのシャトルを取り出し、新しい糸が用意されているシャトルと交換します。
ちょうどいい位置までシャトルを押し込んで、運転レバーをかけます。
シャトルの押し込み方に不具合があると大きなトラブルに直結するので、このように一旦止めた後の織り直しは慎重に行うようにしてます。
問題なく織機が動き出したのを確認して、先ほど取り出したシャトルから管(くだ。ヨコ糸が巻かれている木の棒。これをシャトルにはめて糸を引き出します)を取り出し、残った糸をほぐし取り、使い終わった管専用の容れ物に入れます。
そしてすぐに糸の巻かれた新しい管を空の状態になっているシャトルにセットします。
ガシャン、ガシャンとヨコ糸が織り込まれていきます。
織物によりますが、およそ1ミリずつ織られていくとイメージしてみてください。
織機の前に立ち、ほんの少しずつ形を現していく織物を眺めながらぼくはこう思っています。
「全然進まねえ…」
織物も時間も全然進みません。
そういうものだと分かっていますが、退屈に感じます。
「退屈」に感じてるな、と自覚するタイミングで気付きます。
「あ、集中できてないんだ」って。
これは長時間織ることに身体が馴染んでない証拠です。
サンプル作りでは糸の準備や織機の調整などの準備工程を一人で慌ただしくやって、実際に織機の前に立つのは10分から30分。長くても1時間程度。その間「狙い通りのものが織り上がるのか?」と緊張しているので焦ることはあっても、退屈することはありません。
本番の製織だってどんなトラブルが突然発生するかもしれないので、ある程度の緊張感は必要です。
でもこれはぼく個人の性格上の問題です。
スムーズにいくとすぐに調子に乗ってナメるんです。
先週展示会に行っていたのも影響してます。
(普段の工場の時とは使う神経が全然ちがいます)
もう、こういう時の解決法としては、とにかく一本織ることです。
(帯は一本て呼びます。着物は反物(たんもの)なので一反(いったん)。)
織っている間はできるだけ他の用事や作業に関わらないように。
一本織った時点で、ある程度身体と頭が落ち着いてきます。
織物のリズムというか、ペースに馴染んできます。
そしたらそのまま、手を止めないように織り続けます。
その頃には次第に、意識が目の前の織物にだけ向かうようになって、視野も広くなって、心静かに集中できるようになります。
ガシャン、ガシャンと織機は同じリズムで繰り返していますが、だからといって何も問題が起きていない訳ではありません。
タテ糸が切れているかもしれないし、何か思わぬトラブルが発生している可能性もあるのです。
帯を一本織るのに必要な2時間とか、4時間とか、無理矢理にでも身体を「織りの時間」の流れに馴染ませると、いつのまにか、その織りのペースが心地良いものとなっていきます。
最近まで一緒に働いていてくれた大ベテランの片山さんがよく言ってました。
「私は織ること自体が好きなんだよ」
他の人にしてみれば騒音でしかない織機のリズムですが、慣れてしまうとその音や、織りに集中している状態が心地よくなのかもしれません。
それと。
デザイン、営業、製織、それぞれが分業制であれば、それぞれが慣れている工程に専念できるから効率はやっぱりいいんだろうな、と。
でも、今のぼくらにとっては、織物にまつわる作業の多くを自分たちでやっているおかげで、その織物の価値を芯から理解できることにつながっているので、それがすごくありがたいです。
織機の運転レバーをかけるまでに関わってくれている各工程の職人さんたちの仕事、そして今、自分が織機と向き合っているこの時間に起きている色んな事、全部ひっくるめたものがぼくたちの織物な訳で。
ちなみに、コロナ前はワークショップで「小さい織物づくり」というのをやってましたけど、あれは織り始めてすぐに集中できました。参加した多くの人たちが言ってました。「本当にあっという間に時間が過ぎた」って。機械で織るものと比べると面積ははるかに小さいけど、達成感はかなりあって。
気持ち的にも「整ってる」のかもしれません。
またやりたいな、と思っている近頃です。
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実は昨年末、立て続けに嬉しい仕事の依頼がありました。
今まで帯の機屋として「織物頑張ってきて良かったー!」って思えるような話です。
具体的なことはまだ言えないですけど、ちゃんと報告できるように頑張ります。
今年のぼくの抱負は「初心に帰る」と「自分らしく楽しむ」、です。
皆さんはどんな感じでしょうか。
それでは今年もまた一年よろしくお願いいたします。
では。